浅草橋探検(2)(with都合学 by 大澤幸生)

今思えば、浅草橋に求めていたのは、
賑わいの中途半端さ、言い換えれば自然さ故に
人を信じる気持ちを復活させてくれる空間であったのではないか。

100枚近い写真を撮ったが、そのうち、ブレの少ない
ものを追ってゆこう。

Twelve:意図) 無理をせずに一杯やれる雰囲気を撮りたかった。
Twelve:前提制約+) 手描きのような看板の時の配置と、客に遠慮しない玄関。
Twelve:前提制約-)自転車が邪魔で入りにくいかな、それと頭の固い人には無理。
Twelve)無くなったら、家にも職場にも疲れたオッサンがグレる。


Fifteen) 居酒屋やラーメンはちょっと違う店
Fifteen:前提制約+) 町に上品さを添えてくれる。高価ではないので強盗も入らないだろう。
Fifteen:前提制約-)安い鉱石が多いので、かえって町を安っぽくしている。
Fifteen:派生制約)無くなると、この街を歩く若く美しい女性たちが消えてしまうのが心配だ。


Ten,Eleven) オフィスビルの隙間の、ちょっと替った何か。
Ten,Eleven:前提制約+) 白い明かりが、不思議に暖かく見える。ビルの間に屋形舟の店先の看板が見えるのは、新鮮で心の弾む思いがする


Ten,Eleven:前提制約+) 川沿いに屋形舟業者の明かりが軒を並べ、ビルの中にいるビジネスマンやマンションの住民に、別世界へ誘うよう

に見える。
Ten,Eleven:前提制約-) 予約がいるかな?屋形舟に乗る方法が分からない。
Ten,Eleven:派生制約) 屋形船がなくなると、釣りバカのハマちゃんのような人が病気になる。



Nine) 道の角という場所の、浅草橋らしい使い方。
Nine:前提制約+) 角という人通りを活かした入りやすい立ち飲み屋。
Nine:前提制約+) 提灯の光の色の暖かさ。赤い光と、3段に積んだビールケースが、客の身体の求めに応じている。
Nine:前提制約-) ビニールの覆いが無いので、冬はちょっと寒いかな。
Nine:派生制約) ここがないと、一々長時間入る覚悟を決めて店を選ばなければならないので、オッサンたちも女性たちも、右往左往するのでは。


Thirteen)少し遠いところにあるくつろぎの空間。
Thirteen:前提制約+)殺風景な広い通りの突きあたりに、暖かい光と食。
Thirteen:前提制約-)通りの殺風景さが、痴漢の出現を想像させる。
Thirteen:派生制約)立て直して綺麗になると、40のオッサンは泣くだろう。


Seven) 高架下ごしに見た、線路の反対側にある居酒屋の光。別世界への憧れを刺激するだろう。
Seven:前提制約+) 線路の反対側は心理的に遠いので、渇望感から居酒屋の魅力が増幅する。浅草橋の場合は、適当な近さ感もある。
Seven:前提制約-) 高架の下は少し歩く人が無表情で、撮影者への視線が冷たい。
Seven:派生制約) この隙間がコンクリートで埋められると、反対側との文化の差が広がってゆくのではないか。


Forteen) 距離の離れたところにある、周囲より明るい居酒屋。
Forteen:前提制約+) 両隣りより赤い色調の光と、暖かい賑わいを感じさせる入口。
Forteen:前提制約-) 周辺が殺風景なので、店に着くまでに挫折する。
Forteen:派生制約) 無くなると、常連さんはがっかりするが替りの店をすぐ見つけるだろう。


Eight) 線路と町の空間的関係の特徴
Eight:前提制約+) 異種類の行動が同居する感じが、新しい感覚を期待させる。
Eight:前提制約-) 上の通路が地下に潜ると、浅草橋駅に守られているような感じがなくなる。すぐ帰れるような安心感が消えて、若い女性は遠のくのではないかな。


Six) 他とは違う業種のショーウィンドウ。
Six:前提制約+) 浅草橋に、アートの上品な雰囲気を添えてくれる。
Six:前提制約-) アートをいろいろ見たいと思う人にとっては、浅草橋にあると難しいのではないか(すぐ呑みたくなるから)。
Six) きっとユニークな内容のギャラリーだろうから、無くなるとファンががっかりするだろう。


Four) ちょっと変な隙間の空間。
Four:前提制約+) これは本当に奇怪な感じなので、ユニークさが刺激的。
Four:前提制約-) 最近営業してないようで、ゴミ置き場になった感あり寂しい。
Four:派生制約) この場所は、やはり何か堅気の商売を開業した方が周辺の雰囲気も良く、周辺店の経営者も、上階の住人も安心する気がする。


この町の良さは、
仕事や人間関係に疲れた人が、ふと夕暮れ時に
思い出してぶらりと立ち寄ることで、人というものの
ぶっきらぼうな温もりを思い出させてくれることではないか。

もしこの町が再開発され、高架下の部分が
もっと派手な商店街や洗練された文化施設
替られたとしたら、ビジネスマン(多くないかも
知れないが)は心の洗濯場を失い、花のお江戸は
週初めの経済活性を損うだろう。